相談件数では「いじめ・嫌がらせ」、助言・指導の申出件数では「労働条件の引き下げ」、あっせんの申請件数では「解雇」がトップ(令和7年度の個別労働紛争の状況)

「うちの会社は風通しが良いから、大きな労使トラブルなんて起きない」
日々現場で奮闘されている人事・労務の皆さん、そんな風に安心していませんか?

厚生労働省が公表した『令和7年度 個別労働紛争解決制度の施行状況』のデータを紐解くと、その油断は経営を揺るがすリスクになり得ます。

(詳しくはこちらをご覧ください)
・「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00235.html

現在、労働者が不満を抱え、国などの外部機関に助けを求めるきっかけ原因となっているのは、「いじめ・嫌がらせ」「労働条件の引き下げ」「解雇」の3点です。

これらは「社内のコミュニケーション不足」といった曖昧な問題ではなく、明確な法令違反や損害賠償リスクに直結します。この最新データをもとに、実務現場で点検すべきポイントを解説します。

「個別労働紛争解決制度」の3つのステージ

本題に入る前に、労働者が利用する「個別労働紛争解決制度」の仕組みと、各段階で最多となったトラブル内容を整理しましょう。

制度の名称概要令和7年度最多のトラブル内容
総合労働相談あらゆる労働問題に対するワンストップ相談窓口いじめ・嫌がらせ(55,614件)
助言・指導労働局長が解決の方向性を示し、自主的な解決を促す労働条件の引き下げ(1,220件)
あっせん紛争調整委員会の専門家が間に入り和解を図る解雇(892件)

総合労働相談の件数は119万8,010件に上り、18年連続で100万件を超えています。これは、「会社と直接話しても解決しない」と見切りをつけ、外部に駆け込む労働者が常に一定数いるという事実を示しています。

1. 「指導のつもりだった」は通用しない(いじめ・嫌がらせ)

民事上の個別労働紛争に関する相談で、14年連続トップとなっているのが「いじめ・嫌がらせ」です(55,614件、前年度比1.1%増)。

現場の管理職から「あれは業務上の必要な指導だ」「最近の若手は少し厳しくしただけでパワハラだと言う」といった声を聞くことはないでしょうか?

ここで注意すべきは、この55,614件という数字には「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」に規定される明白なパワハラ相談は含まれていない(別計上されている)という事実です。つまり、法の定義に当てはまるか微妙なケースや、同僚間の嫌がらせなども含め、職場の人間関係に起因する相談が依然として膨大に存在しています。

会社が「単なる人間関係のトラブル」と放置すれば、被害者からの損害賠償請求だけでなく、会社の安全配慮義務違反として経営陣の責任が問われます。管理職の「主観」に委ねるのではなく、客観的な事実に基づき、迅速に事実確認を行う体制が整っているか、今一度確認が必要です。

2. 会社の一方的な都合でルールを変えていないか(労働条件の引き下げ)

労働局長による「助言・指導」の申出でトップなのが「労働条件の引き下げ」です(1,220件、前年度比10.6%増)。

例えば、業績悪化を理由に「来月から各種手当を一律カットする」「基本給を一方的に引き下げる」といった運用を、会社主導で進めていませんか?

労働契約法第9条では、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と明確に定められています。

合理的な理由と適正な手続き(労働者への十分な説明と個別の同意取得)を経ない労働条件の切り下げは無効となり、後から未払い賃金として請求される大きな火種となります。安易なコスト削減は、かえって致命的な代償を払うことになります。

3. 「明日から来なくていい」の重い代償(解雇)

最も紛争がこじれた「あっせん」の段階で最多となるのが「解雇」トラブルです(892件、前年度比12.6%増)。

能力不足や協調性の欠如を理由に、「これ以上雇っておけないから辞めてもらおう」と安易に解雇通知を出してしまうケースが後を絶ちません。

しかし、日本の労働法制において、解雇は極めてハードルが高い行為です。労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効となります。

解雇が無効と判断された場合、解雇日から解決日までの期間の賃金(バックペイ)を全額支払った上で、職場復帰させるか金銭解決を図るかという、非常に重いペナルティを背負うことになります。現場の感情論で解雇に踏み切ることは、絶対に避けなければなりません。

まとめ:今日から人事が取るべき3つのアクション

これらのデータが示すのは、現場での初動対応の誤りや、労働条件・雇用の根幹に関わる部分での「会社側の説明不足や手続きの瑕疵(かし)」が、そのまま紛争に直結しているという事実です。

実務担当者として、以下の3点を見直してください。

  • ハラスメント相談窓口の形骸化を防ぎ、初動の事実確認フローをマニュアル化する
  • 賃金や労働時間などの労働条件を変更する際は、必ず対象者へ個別に説明し、書面で「同意書」を取得する。合わせて就業規則も忘れずに変更する。
  • 問題社員に対しては、いきなり解雇や退職勧奨に踏み切る前に、指導記録(業務改善指導書など)を客観的な証拠として残す

会社のルールと労働法にズレがないか、定期的に労務監査を行うことが、企業と従業員を守る最強の盾となります。

注意

※本記事は一般的な解説です。個別の事案については、行政機関や社会保険労務士などの専門家へご相談ください。