賃金不払に関する監督指導 令和7年の賃金不払事案の件数は22,605件(前年比251件増)(厚労省)

「残業は事前申請制だから、無申請の残業代は払わなくていい」「固定残業手当を毎月払っているから大丈夫」……現場でこのように考えて運用していませんか?

厚生労働省が公表した「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)」によると、労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案の件数は22,605件となり、前年より251件増加しました。

金額自体は減少しているものの、指導件数が増えている背景には「会社側に悪意がない不注意や認識不足」による不払いが全国で多発している実態があります。未払い賃金の放置は、労基署からの是正勧告だけでなく、過去3年分に上る遡及支払いや企業イメージの失墜に直結します。自社の運用が法的に正しいか、改めてチェックしてみませんか?

令和7年の賃金不払指導結果:件数は22,605件へ増加

今回公表されたデータの全体像を確認します。

項目令和7年 取扱実績前年比労基署指導による解決状況(解決率)
件数22,605件251件増21,731件(96.1%)
対象労働者数173,016人12,181人減167,828人(97.0%)
金額128億5,782万円43億5,331万円減109億9,703万円(85.5%)

取り扱い事案の約96%が労基署の指導によって解決し、実際に100億円を超える未払い賃金が労働者に支払われました。労基署が事業場への調査を強化しており、隠れた不払いが次々と表面化している証拠ですね。

現場で多発する「うっかり未払い賃金」3つの是正事例

労基署から指摘を受けるケースの多くは、経営者や人事が「問題ない」と思い込んでいる日常の慣習に潜んでいます。

  • 事例1:事前申請のない残業を「勝手に行った」として無視する「残業申請を出していないから残業代はゼロ」という運用は通用しません。上司が残業をしている事実を知りながら黙認していた場合、明示または黙示の「指揮命令」があったとみなされ、労働時間としてカウントする義務が生じます。
  • 事例2:着替え・朝礼・後片付け時間を「業務外」扱いにする「制服への着替え」「始業前の朝礼」「営業終了後の清掃・レジ締め」を労働時間から除外していませんか?これらが会社の指示や業務上不可欠な作業であれば、すべて労働時間です。わずか1日15分の着替え時間であっても、全従業員分が積み重なれば莫大な未払い額に膨らみます。
  • 事例3:固定残業代の「超過分」を清算していない「固定残業手当(例:月30時間分)を支払っているから、どれだけ残業しても定額でOK」という誤解も深刻です。実際の残業時間が30時間を超えた場合、その差額を追加支給しなければ、明白な労基法違反となります。

労働時間管理のズレがもたらす法的リスク

賃金の不払いは、単なる計算ミスでは済まされません。法的には労働基準法第37条(割増賃金)違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象です。悪質な事案や指導に従わない場合は、厚生労働省のウェブサイトで企業名が公表され、送検される事例も毎年発生しています。

また、割増賃金請求権の消滅時効は現在3年です。退職者や現職従業員からまとめて過去3年分の未払い残業代を請求された場合、一社あたり数千万円規模の突発的なキャッシュアウトが発生し、経営の根幹を揺るがしかねません。

今日から取り組むべき3つの実務アクション

トラブルを未然に防ぎ、健全な労務管理を構築するために、今すぐ以下の3点に着手してください。

  • PCログやタイムカードによる客観的な時間把握
    自己申告制に頼るのをやめ、タイムカードやPCのログイン・ログアウト履歴など、客観的な記録をもとに労働時間を把握する体制を整えます。
  • 固定残業代の契約文言と手当額の再点検
    雇用契約書や就業規則に「何時間分の時間外手当としていくら支給するか」が明記されているか、そして実際の残業時間がその上限を超えた際に超過手当を自動計算・支給する仕組みがあるかを点検します。
  • 準備・片付け時間の実態調査と運用見直し
    制服の着替え、朝礼、後片付けなどの時間が業務として義務付けられていないか現場の働き方をヒアリングし、必要であれば始業・終業時刻の設定自体を見直します。

労働時間を正確に把握することは、企業を守る防波堤です。事態が大きくなる前に、社内の労働時間管理体制を総点検しておきましょう。

(詳しくはこちらをご覧ください)
・賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)を公表します(厚生労働省 ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75588.html

・【別紙】監督指導結果等(厚生労働省 PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/001529189.pdf

・事業主の皆さま、労働者の皆さま 未払賃金が請求できる期間などが延長されています(厚生労働省 リーフレット PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/000617974.pdf

注意

※本記事は一般的な解説です。個別の事案については、行政機関や社会保険労務士などの専門家へご相談ください。