労災保険を使うと、会社の保険料は上がりますか?
経営者および実務担当者が最も懸念される事項の一つに、「労災を申請すると翌年度以降の保険料負担が増えるのではないか」という点があります。
結論から言うと、労災保険を使用したからといって、必ずしもすべての会社の保険料が上がるわけではありません。会社の規模や事業の種類、災害の内容によってその影響は大きく異なります。
実務上のポイントとなる「メリット制」の仕組みと対象範囲について解説します。
1.労災保険料が変動する仕組み「メリット制」とは
労災保険料が事故の発生状況に応じて上下する仕組みを「メリット制」と呼びます。これは、労働災害防止の努力を払っている事業主の負担を軽減し、負担の公平性を保つとともに、安全衛生管理の促進を目的とした制度です。
2.メリット制の対象となる会社の条件
すべての会社がこの制度の対象になるわけではありません。メリット制が適用される(=労災発生により保険料が上がる可能性がある)のは、以下のいずれかの要件を満たす事業所に限られます。
- 労働者(従業員)数が100人以上の事業所
- 労働者数が20人以上100人未満で、かつ「災害度係数」が0.4以上の事業所
小規模事業所への影響
従業員数が20人未満の事業所については、メリット制の適用対象外です。したがって、業務上の事故で労災保険をいくら使用したとしても、それを理由に会社の労災保険料率が引き上げられることはありません。
3.中規模事業所における「災害度係数」の判断
従業員数が20人以上100人未満の事業所であっても、業務の危険性が低い事業(例:事務中心の事業など)であれば、保険料に影響しないケースが多くあります。
判断基準となる「災害度係数」は以下の式で計算されます。
【災害度係数の計算式】 労働者数 ×(労災保険率 - 非業務災害率※) ≧ 0.4
※非業務災害率は、全業種一律で 0.6/1,000 とされています。
具体的な計算例
- 「その他の各種事業」(労災保険率 3/1,000)の会社の場合:
従業員数が99人であっても、計算式は 99 × (3 - 0.6) / 1,000 = 0.2376 となり、0.4未満であるためメリット制の対象外となります。 - 「ビルメンテナンス業」(労災保険率 6/1,000)の会社の場合:
従業員数が74人までであれば、計算式は 74 × (6 - 0.6) / 1,000 = 0.3996 となり、0.4未満のため対象外です。
このように、一定の規模以下で危険度の低い職種であれば、保険料の上昇を過度に恐れる必要はありません。
4.保険料が上がらない「例外的な災害」
メリット制の対象となる大きな会社であっても、以下のケースについては保険料算定の対象外(=保険料は上がらない)となります。
- 通勤災害: 通勤途中に発生した事故(通勤災害)は、事業主の支配管理下外での事象であるため、メリット制の計算には一切含まれません。
- 第三者加害事由による災害: 交通事故など、他者の行為によって引き起こされた災害も対象外となる場合があります。
実務担当者へのアドバイス
労災隠し(事故が発生したのに報告しないこと)は、労働安全衛生法違反として厳格な罰則の対象となります。
「保険料が上がるから」という理由で申請を躊躇することは、結果として企業にとってより甚大なリスク(是正勧告や社会的信用の失墜)を招きます。自社がメリット制の対象かどうかを正確に把握した上で、迅速かつ適正な手続きを行うことが、経営リスクの最小化に直結します。
(参考資料)
・労災保険のメリット制について(厚生労働省 PDF)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhokenpoint/dl/rousaimerit.pdf
注意
個別の事情や最新の法改正状況により判断が異なる場合があります。具体的な運用については、管轄の労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家へ相談されることを推奨いたします。
